西蔵王の春                                       宍戸淳子


平地の桜より二週間ほど遅く、5月の連休が終わる頃、西蔵王の大山桜が満開になる。
松見町の交差点から小立方面へ進むと、街道沿いに植えられた濃いピンクのハナミズキが、歓迎するかのように咲き誇っている。そして三百坊への山道を進んで行くと、牧場の駐車場にたどり着く。
朝日が昇る頃、リュックを背負いカメラを担いだ遠方から来たであろう人たちが、坂道を登り、自生する色の濃い大山桜を撮りに来る。
ひっそりと咲くその桜が知れ渡るようになると、多くの人たちが木の根の部分を踏みしめ、そのことによってなのかどうか詳しくは知らないが、一時、木は弱り、花を咲かせなくなった。今もまだ昔の花の量を取り戻していない。
かつて、この地を訪れた西行が、「たぐいなき 思ひ出羽の 桜かな うすくれなひの 花の匂ひは」「都路を 思ひ出羽の 瀧の山 こきくれないの 花の匂ひぞ」などを詠んでいるが、この辺りだったのかどうか真相はわからない。
この桜を見終えて、山道を下りて来る時に前方に見えるのが、真っ白に雪をかぶった朝日連峰と月山である。
駐車場まで下り、今度は牧場の中の舗装されたゆるやかな道を歩いて行くと、やがてななめ後方に、さきほどよりも雄大な白い月山が美しく見えてくる。しばらく立ち止り、見とれることになる。
湿地帯には水芭蕉が咲き、再び歩いて行くと、壁のように立ちはだかる瀧山が目の前に迫ってくる。瀧山の斜面のところどころにも桜が咲いているのが見える。遠い縄文の時代から列島には桜が咲いていたといわれている。
まだ牛の放牧されていない広い牧場の若草の緑と、桜の木がポツンポツンと存在する様子は、まるで絵本を見ているかのような可愛らしい風景だ。ここが私の好きな景色である。密集した桜の花見を味わうのとは全く違う春がここにある。
テレビ塔近くの展望デッキから、山形市内を一望することも忘れてはいけない。夜景は勿論美しい。
帰りは、岩波の石行寺近くの川沿いを下る。カーブを曲がった瞬間に目に飛び込んでくるのが、斜面いっぱいに咲く黄色い山吹の花である。清流の川音を聞きながら美しさを目におさめる。ここは山吹ロードとも呼ばれている。
なお、この瀧山は平安時代から鎌倉時代にかけて、堂塔や宿坊が立ち並ぶ一大霊場として栄えた歴史があるようだ。また、市内に残された日本最古の二つの石鳥居は、大震災にも負けず約千年も倒壊せずに存在している。山形市は山々の神々に守られている土地なのかもしれない。







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